是正勧告の対応・対策
良くある是正勧告の事例
■ 36協定について
是正勧告の中で一番多い違反は労働基準法第36条にたいしての法令違反を指摘されるもので、時間外・休日労働の労使協定を締結していないのに時間外・休日労働をさせているというものです。 この労使協定はいわゆる36協定といわれるものですが、この締結と労働基準監督署への提出を忘れることがとても多いのです。 この協定には有効期間を定めなければならず、一定期間にどれくらい時間外労働をさせるかも定めなければならず、その一定期間が最長1年間と定められていることで、協定の実質的な有効期間が最長1年間となり、毎年協定をし直して届け出なければならないために忘れてしまうのです。ただ、この是正勧告は受け取ったらすぐに届け出ればよいので形式的なものと考えてよいでしょう。 |
■ 時間外・休日労働の割増賃金の不払いについて
労働基準監督署の調査では必ず出勤簿と賃金台帳を調査しますが、両方を照らし合わせて残業代が法定どおり支払われていないと是正勧告を受けることになります。 「賃金不払いがある」と指摘されると「当社はきちんと給料は支払っている、残業代もちゃんと支払っているが、たまたま監督署の見解と違うためその一部が支払われていないだけだ」と反論する方がいますが、労働基準監督署に言わせると「見解の相違」ではなく、労働基準法の「法律違反」を指摘しているのだということになります。 厚生労働省はサービス残業を解消するための取り組みを重点的に行っていますが、その一つが労働基準監督署による調査・是正指導です。 平成18年度の割増賃金の是正支払状況は、是正企業数1679社、支払い金額の合計は227億円にのぼり、平均は1社当たり1353万円にもなっています。 労働基準監督署の監督課から調査に来ると、このサービス残業の有無は必ず調査されます。そして労働基準法に厳格に従った方法で計算していないと必ず是正指導され、その指導に従わないと最終的には会社と代表取締役は検察に書類送検されます。そして送検されるとほとんどの場合起訴されて有罪になります。量刑は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金となっています。 |
■ 労働安全衛生法について
その他は労働安全衛生法違反があると是正指導の対象になりますがこれはなかなか厄介です。労働安全衛生法は従業員を安全に働かせる義務を会社に負わせるものなので絶対に守る必要があるからです。 従業員が病気や怪我を負った場合で会社に労働安全衛生法違反がある場合には労災補償の上に損害賠償請求をされることがほとんどだからです。 労働基準監督署の是正勧告で労働安全衛生法違反を指摘されたら速やかに是正するべきです。 |
是正勧告の対応
① まずは、落ち着き、あわてないこと
是正勧告を受けたからといっても、別に検挙されたわけではありません。
指導にしたがって今後改善するという姿勢で臨めばよいのです。
② 表面的な体裁を整えるのにとどまらないこと
一時的に体裁を整えるということや、虚偽の報告をするようなことはやめるべきです。
これを逆に会社の管理体制を整える良いきっかけにするという姿勢が求められます。
③ 期日内にできることとできないことを分ける
改善を行うためには、一から労務管理基盤を整え直す必要がある場合もあります。
期日内にできることとできないことを分け、期日内にできないことでも、
いつごろまでに行うということを申し出ればよいのです。
④ 是正報告には証拠資料・参考資料を添付する
例えば、従業員とどの程度話し合ったか、全体打ち合わせ時の記録や同意書など、
細かな資料を多く作り、監督官にそれらを示すことで本当に改善を前向きに
行っているという良好な心象を与与えることができます。
順を追って、それぞれの対応を考えてみましょう。
1,臨検(調査)通知対応
是正勧告を受ける前には調査目的や調査する帳票などが記載されているハガキで調査があり、調査の前には調査する旨の連絡があります。
まれに突然調査に来ることもありますが、その日に対応できなければ別日程に変更してもらうことも可能です。 |
2,規則整備対応
そして36協定を締結していない場合には調査前に締結届出をし、就業規則が不備であれば見直すことです。また残業代の不払いの可能性があるときには従業員の同意を得たうえで賃金制度を急遽変更するなどの対策をしておきます。 |
3,是正措置対応
是正指導の通りにするためには多額の費用が掛かる場合もあります。明らかに法違反があると指摘された部分はいくら費用が掛かっても改善しなければなりませんが、指導事項の場合は直ちに法律違反とはなりませんので、よく検討してからにすべきです。 |
4,是正報告書対応
是正勧告に対しては是正した旨を報告書にして提出しなければなりませんが、報告期限も勧告書に書いてありますが2週間程度と短いのが通常です。ですので、この報告期限も場合によっては延長してもらうことができます。 |
労働基準監督官と見解が相違する場合どうしたらいいか
是正勧告書は、事業場監督に際して、労働基準監督官が、法違反に該当すると 考えた事項を記入して、是正するように勧告するために交付する文書です。
これは、是正命令書ではなく是正勧告書ですから、この勧告により事業主側は 是正することを義務付けられることは本来的にありません。 強制力はもちろんないので、事業主側はあくまでも法違反でないと考えていて
勧告に応じなければ、労働基準監督官としては法違反として捜査のうえ送検し、 後は検察庁や裁判所の判断を待つしかないというものです。
もちろん行政処分にも該当しないので、勧告内容に不満があっても事業主としては 行政不服審査法や行政事件訴訟法により争うことはできないものです。
「労働基準監督官の発する是正勧告というのは、一般に 労働基準監督行政を実施した際に発見した法違反に対する行政指導上の 措置に止まるもので、何らの法的効果をも生ずるものではない」
とされています。
是正勧告は、これにより法違反の状態を当然に変更するものではなく、 また、勧告を遵守しない使用者に対し、罰則を科するとか、 その他これの遵守を強制する制度も設けられておらず、あくまで、 勧告を受けた使用者が自主的に勧告に従った是正をするのを 期待するものに過ぎません。
使用者は、勧告に従った是正をしなかったとしても、その法的地位に何らの影響も受けません。
労働基準法は違反すると懲役刑まであるいわば労働刑法です。
これらに基づく是正勧告に対しては対応を絶対に誤らないようにしなければなりません。
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